8月3日 朝

東京物語を観た。本編を最後まで通して観たのは意外にもこれがはじめてだった。断片的にいろいろなシーンを覚えていたが、やはり際立っていたのは原節子氏の演技力と美貌。世界的に評価が高いのも頷ける。意外といえば、結構、前に観たデニーロ主演のエブリバディファインが東京物語のリメイクのリメイクであることも昨日、知った。最近というか、ここ十年で観た映画のなかではトップ10に入るぐらい好きな映画にもかかわらず、漫然と観ていたものだ。家族の絆って何かねえ、と考えさせられるドラマや映画が巷にはあふれている。松田優作主演の家族ゲームもそのひとつだった。菊次郎の夏なんかも思い出深い。お茶漬けの味も観た。こちらは夫婦って何かねえ、と省みるような映画だった。最後、お茶漬けをすするシーンで夫婦はその答えを見つける。夫婦ってお茶漬けのようなものなのだ。わかったようなわからないような茂吉の言葉が胸に迫る。唐突に大東京ビンボー生活が読みたくなって、全五巻をひっぱりだした。主人公、コースケくんは無類の映画好きで、新しい映画も見るが、古い映画もよく観る。名画座の最後の一週間。枕付きオールナイト劇場の演目には成瀬巳喜男主演のめしの文字がある。なかでも読み返したかったのは第二巻51話のビデオ三昧。「隣の学生が合宿に行っている一週間、おれもビデオ合宿をする」冒頭、そんなセリフではじまる。合宿の一週間、60本以上のビデオを見続け、最後は唯一、所有するソフト、東京物語で合宿をしめくくる。のんびりした時代の、のんびりしたエピソード。昔はとにかくレンタルビデオ屋をうろうろするというのが娯楽の王様だった。今もたいして変わらないが、新作の興奮よりも昔の映画の新しさにわくわくする最近なのだった。