3月11日 朝
ひさしぶりに焼き肉に行ってきた。運動して、風呂に浸かって、サウナ入って、身も心もリフレッシュしたあとに肉とビール。これほど至福なときがあるだろうか。大概の悩みとかしくじりの記憶はこれですっかり洗い流される。夜もぐっすり眠れる。ストレス解消のしかたはひとそれぞれだが、酒の飲めるオトナであれば、大多数に共通するのではないだろうか。安倍首相の銃撃事件があったときにも考えたのはそんなことだった。明け方のスパワールドで、東の空がうっすらと染まるころ、露天風呂にいた。客の姿はまばら。ぼーっと空を眺めながら湯船のなかにいると、いろんな思い出が頭上の雲の流れのように脳裏を過っていく。たかじんがまだいたころ、そこまで言って委員会で、安倍首相とたかじんが一緒に露天風呂に入る企画があった。まだ、自民が政権復帰するまえ。時代は悪夢の民主党政権が続いた三年半の終わりごろだった。裸で肩を寄せ合い、今後の政局について談じる男たち。その後、七年八か月におよぶ長期政権が誕生するとはまだ誰も想像しなかったころだ。首相をやめて、ようやく肩の荷が下りたというのに、派閥の会長もいずれ誰かに任せて、誰に気兼ねするわけでもなく、夫婦で温泉旅行に行けるというのに、大分の元首相のように100歳まで生きて、別府温泉に浸かり放題の人生もあるというのに。あのような悲惨な事件に遭って、すべては夢湯の泡と消えた。今日は3月11日。東日本大震災から実に13年の月日が流れた。生き延びること。生きていれば、風呂のあとの焼き肉が待っている。ささいな幸せがどれほど幸せなことか。今日はそれをしみじみと噛みしめる一日となる。生きて、生きて、生きまくってやろう。いつかそのときがくるまで。生きていれば、風呂と焼き肉が待っている。