もらった小切手は、もう換金して手をつけている。いかなくてはならなかった。つぎの日は別のところへ移動することになっていた。そっちの方はすっぽかせるかもしれない。ロスに戻ってシェードを全部下した自分の部屋で、コールドターキーを飲んで、パプリカをまぶした茹で卵を食べたい。そしてラジオでマーラーの音楽を聴くこと。それが私のしたいことだった。旅猿や遠くへ行きたいに共通すること。それはどちらも仕事だということだ。金を貰って旅をするなら乗り物に何時間も我慢できるかもしれない。
4月17日 朝
安定して「楽しいな」と思える番組。それが東野、岡村の旅猿であり、関西では日曜の朝、6時半からやっており、見逃すことも多いのだが、今朝は観ることができた。ゲストは雨上がりのほとちゃん。徳島をめぐる旅で、最後は三好市祖谷地方の名物、祖谷そばを朝食にいただき、近くの神社を参拝して終わった。安定して、おもしろかった。旅猿がはじまったときのことをはっきりとは覚えていないが、初期のころ、印象深かったのがスイスへの旅だった。ワインにチーズ。陽が傾くにつれ、ゴールドからシルバーに変わっていくアイガー。ほかにはインドへの旅もあったとおもう。パラオでイルカになった回もあった。以前は海外への旅も多かったのだが、最近ではもっぱら国内旅行がメインとなり、無論、そこにはコロナの影響もあるのだろうが、最も深刻な問題はやはりテレビ局の製作費が減ったせいだとおもう。いかに金をかけずにおもしろおかしく見せるか。それが最大の関心事となり、いまの旅番組のほとんどは街ブラ企画とさほど変わりなく映る。そのなかにあって、旅猿は踏みとどまっているほうだとおもう。旅猿が終わるとすぐに遠くへ行きたいがはじまる。今回は神戸の旅で、最初の見出しだけちらっと見ると、長田の鉄人28号を見て、そばめしを食べて、有馬の湯に浸かるということだけはわかった。城崎、湯村、洲本など有名どころの多い兵庫県の温泉にあって、有馬だけは泉質で判断できる稀有な特徴がある。旅はいいな、とたまに出かけたくなるが、それもイメージするだけで、実際に計画を立てたり、宿を予約したり、乗り物に揺られている姿を想像すると、だいたいそこで躓く。出かけるなら近場がいい。飛行機で何時間と考えるだけでその先にある楽しみに見当が及ばないのだ。以前、中居くんがワイドナショーで「宇宙に行ったとして、いうほどおもしろくねえな、と思ってしまったとき、すぐに帰れないから嫌」みたいな発言をされていたが、痛いほど気持ちがよくわかる。ブコウスキーのこの一文を引用したい。