10月15日 朝
金木犀がようやく香った。昨日のことだ。例年なら9月の終わりから一週間程度、満開期を迎えるが、今年は3週間近く遅かった。金木犀が香るころ、世間は静かになる。しーんとなる。自然が無常を訴え、風が騒ぎ出す秋桜のころまで長閑な日和と化す。地元の秋祭りも今年は日の並びがよく、土日と重なるのだけれど、屋台はでないし、練り歩きもない。よそもたぶん神輿はでないだろうとおもう。静かに参拝するだけだ。気づけば10月も半ばに差し掛かった。季節が前に進むこのころ、聴きたくなる歌がある。桑名正博氏の「悪いなぼうやもう終わりなんだよ」というタイトルだったとおもうalbumの最後の曲。ユーチューブで検索したが、やはりなかった。歌詞の舞台はいつも遊園地を思い浮かべてしまうが、おそらく違うのだろうということが、この季節になるとわかる。秋祭りの季節だから。なにやら今年を象徴しているようなはじまりかただ。「悪いなぼうやもう終わりなんだよ、秋風だからね、おまつりも淋しくなってさ、オトナになるのは一年おあずけだな、間違いなく来年もここへやってくるから」歌詞のなかで、もっとも好きな箇所はやはりここ。「ところでぼうやヘイボーイ、タバコの煙で輪がつくれるか?ビールを一気に飲み干せるか?ひげがもう少し濃くなったら、女のことも教えてやるがな」ユーチューブでHIDEのインタビューを観ていたら、酒も女もタバコも横須賀のドブ板通りで知った、といっていたが、男にはそういった場所がある。少年と言い換えたほうがいいか。そういった場所を経て、オトナになる。桑名氏を見上げていた小僧が今度は見下ろす立場になる。そして。やがて。秋風とともにこの世を去る。秋はそんな季節だ。名作「初秋」のなかでポールがオトナになったように「晩秋(原題ペイストタイム)」のなかでスペンサーが過去を物語るように、春が一歩、踏み出す季節であれば、秋は立ち止まりながら、振り返りながら、いやがうえにも一歩、進んでしまう季節なのかもしれない。「チビと言われなくなってきたら、女のほうで夢中になるがな」先輩がどんどんいなくなる。見上げてばかりもいられない。